先日、井上選手の4階級2団体統一をかけた試合が行われました。対戦相手のフルトン選手は21戦21勝一階級上の無敗のチャンピオンで苦戦が予測されていましたが、圧倒的なパフォーマンスを展開して8RKOとうい素晴らしい勝利で幕を閉じました。
今回の試合で井上選手のジャブを打つ時の身体の使い方が気になりました。前回よりも遠い距離から速く、重いジャブを何度も打ち込んでいました。今回は井上選手の左ジャブについて理学療法士の視点から分析していきたいと思います。
最初の構え
今回の試合はL字ガードに構え、左ボディと左ジャブを多く活用していました。打撃の対象を増やすことで相手の反応を惑わし、最後は左ボディから右ストレートでKOをもぎ取りました。重心を下げ左ボディの構えから左ジャブを打ち込んでいたため、下から上の軌道へ打つジャブが多くみられました。このジャブでの身体の使い方が気になったので私なりに分析していきたいと思います。
立ち姿勢・構え
この時点では右足部は全体が床に設置しています。足部が軽度外反位で膝も軽度屈曲股関節は内旋位・骨盤は後傾位で構えています。骨盤後傾位の特徴として重心を下に落とすことができます。骨盤が前傾位だと重心は自然と高くなります。
重心の移動開始期
ここは重心を下げ右から左へと体重移動をする場面です。左足を一歩前に踏み出すことで、膝が曲げやすくなり重心が下狩りやすくなります。蹴り足の右足部は1枚目より足部外反に傾いています。力のイメージとして小指側→親指方向に体重が移動していくタイミングです。
左下肢への重心移動期
いよいよ左ジャブを当てに行くスタートポジションです。左足部は浮かした状態で右膝関節を伸展させて伸びた状態です。前方方向に片脚ジャンプした状態です
下肢から上肢へ出力の移行期
ここでは左上肢が伸びてきます。体幹伸展させて右に回旋させています。体幹が右に回旋するためには胸骨・肋骨(胸郭)の動きが重要です。胸郭の右回旋が生じて左の肩甲骨が外転位(開いた状態)になり左肘を伸展させています。肩甲骨の外転(開く)が生じることで肩甲骨〜上腕が一直線の方向に保持することができ、最大のリーチ獲得と前方方向への強い推進力を作ることができます。また、肩甲骨を自由に稼働するためには肩甲骨に隣接する胸郭の動きが重要になってきます。前方への強い推進力を合成させた状態でも体幹が前方に傾かず床に対して垂直へ保持しています。あと、見落としがですが、左膝関節は伸展に働いています。接地による前方方向へのブレーキのために必要な予備動作と考察できます。
ジャブの完成形
ここで左シャブの完成です。右足部は底屈位で爪先立ちして膝は完全に伸展して、足部から股関節まで棒のように一直線です。体幹は左に側屈させながらも伸展させて上体を起こしています。そして肩甲骨から肩・肘・拳までも一直線の軌道です。足部から拳まで一直線の軌道で床からの力をしっかりと拳に伝わっているのが理解できます。また、左ジャブのインパクト時では左足はまだ浮遊状態です。左足が床に設置するとジャブの威力が軽減するためインパクト時は接地させていないようにみられます。
5枚目の写真ですが、インパクト後すぐに左足部を接地して前方方向へのブレーキをかけて次の攻撃への移行や移動をしています。(この後の展開はボクシングの技術論になるため控えます
井上尚弥のジャブまとめ
このワンシーンでの動作についての分析を行いました。今回の井上尚弥選手の左ジャブでの身体の特徴として
①重心を下から上へ移動している(ジャブが斜め上の軌道)
②右から左へ体重移動した時の体幹の強さ・姿勢がブレない
③インパクト時の(足部・膝が完全に伸展され体幹は左に側屈・肘も完全に伸展と左方向に対しての推進力)
④左ジャブがインパクトしてから足が地面につく
大きく気になったのがこの4つのポイントです。井上尚弥選手はパンチが強いとよく言われますが、ただ筋力・瞬発力の能力が高いからというわけではありません。
より強いパンチを生み出すために効率の良いフォームを作り上げてきたおかげです。今回が理学療法士の観点から分析してみました。専門用語も入ってしまいわかりにくい点もあると思いますが、このような見方で格闘技を観察すると、新しい気づきが生まれるかもしれないので気が向いたら活用してください。
今回の用語
足関節:内反→足首を内側に捻る 外反→足首を外側に捻る 底屈→爪先立ち,足首を伸ばす 背屈→足首を立てる. つま先を上にあげる
膝関節:屈曲→膝を曲げる 伸展→膝を伸ばす
骨盤:前傾→骨盤を前に傾ける,お尻を突き出す 後傾→骨盤を後に傾ける,お尻を丸める
肩甲骨:内転→肩甲骨を内側に寄せる 外転→肩甲骨を外に拡げる
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