スポーツをしている人にとって、膝の怪我は身近にある存在です。膝関節は走る・跳ぶだけでなく方向転換やブレーキ動作などで損傷するリスクがあります。特に膝関節は靭帯が損傷する事が多く、怪我の度合いにより競技人生に大きく関わります。
パフォーマンス向上のためにも膝関節靭帯損傷の評価を学ぶことは重要です。今回は膝の解剖学・運動学をもとに靭帯のメカニズムを勉強しましょう。
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膝は大腿骨と脛骨に挟まれた関節
まず関節とは骨と骨が重なりあい、軟部組織・靭帯・筋肉などで覆われています。人体には膝関節以外にも肩関節・肘関節・股関節など様々な関節があり、それぞれの関節で可動できる動きが異なります。
関節の動きは1.転がり運動と2.滑り運動がありその二つが上手く作用して転がり滑り運動が行われます。膝関節は大腿骨と脛骨による「大腿脛骨関節」とお皿の部分にあたる「膝蓋大腿関節」に2つで構成されています。膝関節の動きとしては膝関節の屈曲と伸展があり、大腿骨と脛骨の転がりと滑りにより生じる関節の複合運動です。
膝屈曲の初期では転がり運動が中心として働き、大腿骨と脛骨の接点を後方に移動します(ロールバック機構)。その後は、滑り運動を中心に回転することでより大きな可動域を確保する事ができます。
膝関節伸展では大腿骨を前方へと移動させながら、同時に滑り運動が必要になります(ロールフォワード機構)。大腿骨の滑り運動は膝関節の中にある前十字靭帯と後十字靭帯が関与しています。
靭帯は筋肉と違って伸び縮みしないため、2つの骨の位置関係が常に一定の距離間を保つように機能しています。膝関節を屈曲する、ロールバック機構により脛骨に対して大腿骨は後方へと移動します。大腿骨の後方移動が、前十字靭帯により制動されるので、前十字靭帯が緊張した時点でそれ以上の後方移動ができません。そのため、それ以上の回転運動ではすべて滑り運動へと変換されます。
膝伸展運動では、大腿骨がロールフォワードしていくが、後十字靭帯が緊張した時点でそれ以上の前方移動が制動されて、滑り運動が誘導されます。膝屈曲・伸展では骨だけでなく靭帯の動きも多く関わっているため、これらの靭帯が損傷することで関節不安定が生じる原因になります。これらの仕組みからも、膝の靭帯が競技人生に大きく関わる理由がわかります。
また、膝関節の動きは屈曲伸展だけと思われていますが、大腿骨と脛骨の構造から軽度の内旋と外旋も生じます。膝屈曲に伴い自動的に内旋し、膝伸展とともに外旋します。この現象をスクリューホームムーブメントと呼ばれています。
この仕組みとしては、大腿骨内側顆が外側顆に対して1回り大きく強固に結合しており、膝屈曲・伸展に伴い外側顆が内側顆に比べて自由に動くために生じます。また、外側顆が自由に動く理由として脛骨上関節面の構造にも理由があります。脛骨内側上では凹状の構造のため、大腿骨内側顆がはまり込みます。
それに比べて脛骨外側上ではフラットな構造をしているため自由に動くことが可能です。膝関節は骨の構造と靭帯の影響により軽度外旋・内旋を伴うため、適切な動きを習得するには膝最大伸展位での軽度外旋と膝最大屈曲に伴う内旋が生じているか評価する必要があります。次にそれらの機能を生じるために必要な膝関節靭帯の機能を少し紹介します。
膝関節靱帯の特徴について
前回のブログでも紹介しましたが、膝関節の安定性に関与する靭帯は4つあります。それぞれ、1.前十字靭帯2.後十字靭帯3.内側側副靭帯4.外側側副靭帯と呼ばれています。
1.前十字靭帯は大腿骨顆間窩の後外側から脛骨前顆間区へと扇状に広がる靭帯で、下腿の前方不安定性を制動します。
2.後十字靭帯は、大腿骨顆間窩前内側から脛骨後顆間区へと広がる靱帯で、下腿の後方不安定性を強化します。
3.内側側副靱帯は、大腿骨内側上顆加から脛骨近位内側へと走行して、膝関節内側を幅広く安定させます。内側半月板と強く結合していて、下腿の外反不安定を強力に制動します。
4.外側側副靱帯は、大腿骨外側上顆から後方へ向かって腓骨頭へ走行する靱帯です。膝関節の外側を支持する靭帯で、下腿の内側不安定性を強力に制動します。
前十字靭帯と後十字靭帯はお互いが交差しています。その為、下腿の内旋時にはお互いが巻きつくように緊張するため、下腿の内旋制動に対して機能します。内側・外側は下腿内旋時では遠位付着部位が起始に近づくため緊張が緩むため、内旋制動には働きません。下腿外旋では、十字靭帯の巻き付きが無くなるため緊張は低下しますが、内・外側は遠位付着部位が遠ざかるため緊張が強くなり、外旋制動に働きます。これらの仕組みを理解して、どの動きの時に膝に痛みが生じるか判断する事が早急の怪我の評価につながります。
次にいくつか代表的な靭帯評価に使用される整形外科テストをまとめていきたいと思います。
前十字靭帯の安定性を診る徒手検査
前十字靭帯には脛骨の前方不安性の評価と回旋不安定性の評価が必要です。前方不安定性の評価では「前方引き出しテスト」や「ラックマンテスト」、回旋不安定性では「ピボットシフトテスト」と「ジャークテスト」が主に使用されます。
前方引き出しテストでは、患者を背臥位にして、膝関節90度屈曲位で固定します。その状態で下腿の近位部を後方より把持して、そのまま前方に引き出します。その際に靭帯が機能して入れば骨の制動を感じられますが、靭帯の緊張が緩く、骨の移動が制動されていなければ、前十字靭帯の損傷を疑い、陽性と判断します。
ラックマンテストでは患者を背臥位にして、膝関節を20〜30°屈曲位とします。大腿骨遠位部を押さえた状態で、反対の手で下腿の近位部を前方に引き出します。前方引き出しテスト同様に靭帯の緊張が感じられなければ陽性と判断します。屈曲角度が浅い位置で評価できるので、受傷直後の検査として有効です。
次に回旋不安定の評価として使用されるピボットシフトです。患者を背臥位にして、膝外反と内旋強制を加えながら、膝伸展位から他動的に屈曲させます。屈曲20°付近でガクッとした脛骨の整復感を感じれば陽性です
ジャークテストでは患者を背臥位にして、膝関節の外反と内旋強制を咥えながら、屈曲90°から徐々に伸展させていきます。約15〜20°屈曲付近でガクッとした脛骨の脱臼感を感じれば陽性です。
後十字靭帯の安定性を診る徒手検査法
後十字靭帯には脛骨の後方不安定性の評価が必要です。評価方法としては後方押し込みテストが代表的な方法です。患者を背臥位にして、膝関節を90°屈曲位置で患部の足関節を固定します(前方引き出しテストと同じ肢位です)。患部の下腿の近位部を把持して、そのまま後方へと押し込み骨の制動を感じなければ陽性と判断します。
後方引き出しテストを実施する前に、左右の脛骨粗面の位置が揃っているか評価する必要があります。後十字靭帯損傷がある場合は脛骨が後方へ落ち込んでいる場合があります。この現象を「サギング徴候」といい、後方押し込みテストを実施する際に、最初から脛骨が後方へ落ち込んでいると、それ以上の動揺性は感じられず、後十字靭帯は問題ないと評価してしまう可能性があります。逆にサギングした状態から前方引き出しテストをすると、脛骨が後方へ落ち込んだ分、脛骨が前方へ移動するので陽性と判断してしまう可能性があります。その為、前・後十字靭帯の評価ではサギング徴候の有無を事前に評価する必要があります。
外側・内側側副靭帯の安定性を診る徒手検査
外側側副靭帯は膝の外側を保護しており、膝の内側からのストレス(内反)に対して制動する役割があります。その為、評価方法としては膝の内反ストレステストが代表的です。右膝で検査する場合には、検者の右手を大腿遠位部にあて、左手は下腿の遠位を把持して内反へストレスを加えます。その際に患者の膝関節を伸展位と屈曲30°の2パターンで評価します。膝屈曲30°だけ膝の不安定性を認める場合は、外側側副靭帯の単独損傷、膝伸展位でも不安定性を認める場合には、複合靭帯損傷を疑います。
内側側副靭帯は膝の内側を保護しており、膝の外側からのストレス(外反) に対してして制動する役割があります。右膝で検査する場合は、左手を大腿骨遠位部にあて、右手は下腿の遠位部を把持し外反ストレスを加えます。内反ストレステストと同様に膝伸展位と屈曲30°で評価して、30°屈曲位のみで不安定性が生じる場合は内側側副靭帯の単独損傷を疑い、膝伸展位でも不安定性が認める場合は複合靭帯損傷を疑います。
最後に
膝の靭帯は大きく4つに分けられて付着部や機能が異なります。スポーツを長く続けるには膝の怪我をしないことが一番です。ある程度の基本的な知識を身につけて、怪我をした時に評価できる能力を身につけていきたいですね。
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