「関節角度によって筋力は変化する」

身体を動かすには関節の動きが必要です。荷物を持つ時には肘の関節を曲げる、椅子に座るには膝の関節を曲げるなど、各関節が動くことで身体を自由に動かすことができます。

その関節を動かす際に重要なのが筋肉です。関節が動くことで身体を動かすことができ、その操作の要になるのが筋肉だとイメージしてください。今回のテーマは関節角度によって筋力が変化する理由と身体のメカニズムについて紹介していきます。

筋肉の構造

今回は肘関節を例題として説明していきます。肘関節の動きとしては肘屈曲(肘を曲げる)・肘伸展(肘を伸ばす)動作が生じます。肘関節は上腕骨と橈骨・尺骨(前腕部)で構成されて、主な筋肉として前面部の上腕二頭筋・上腕筋や後面部の上腕頭筋が存在します。

上腕二頭筋は力こぶの筋肉で肘を曲げたときに出てくる筋肉です。肘が伸びた状態では上腕二頭筋の筋繊維は伸びた状態で、肘が曲がるにつれて上腕二頭筋の筋繊維が縮んできます。

至適筋節長

そのため肘関節の角度により筋繊維の長さが変化していきます。筋肉は関節が一定の角度で保とうとする力を発揮し、その働きを生理学用語で張力と呼び、筋肉の最大張力が発揮できる長さを「至適筋節長(自然筋節長)」と呼びます。

至適筋節長は筋繊維の長さに比例するので、筋繊維の力を出すには最適な長さです。筋繊維の部位により異なるがおおよそ2.5〜2.7マイクロメーターほどの長さが一番発揮すると言われています。それでは至適筋節長メカニズムを理解するために筋繊維の構造を説明していきます。

ミオシンとアクチン

筋収縮は筋繊維の中にあるミオシン(太いフィラメント)とアクチン(細いフィラメント)と呼ばれる2つの繊維状の構造が重なりあう事で筋力が発揮されます。細いフィラメントはZ膜と呼ばれる網目状の構造から左右に向かって伸びていて、1対のZ膜の中央部に太いフィラメントがあります。この1対のZ膜に挟まれた構造が筋節と呼ばれます。

太いフィラメントと細いフィラメントがお互いに滑り合い、筋節の中央方向に向かって力が発生することで収縮が起こり、これを滑り説と呼びます。

この2つのフィラメントの重なり合いが一番長い状態では大きな力を発揮し、重なりが小さくなればそれに比例して力は落ちてきます。2種類のフィラメントが滑りあって収縮をするメカニズムのため、どの筋肉でも最大筋力を発揮するためには適した長さがあり、その適した長さから離れるほど筋力は減少していきます。

Colorful structure skeletal muscle scheme on white background. Muscles contract by sliding myosin and filaments along each other. Myofibril with thin and thick filament. Flat vector illustration

パフォーマンスとの関連性

パフォーマンスの観点からこの理論を捉えると、筋肉が硬い状態(過緊張や短縮)では筋力発揮が低下します。練習前のストレッチやマッサージは関節可動域を向上させる目的だけでなく、筋力発揮にも大きく関わる事がわかります。

また、筋肉が過剰に緩んだ状態では筋力発揮が低下するのも張力の関係から考えられます。関節角度が異常な場合では筋力発揮が低下する恐れがあり、よく女性に多い肘の過伸展(猿腕)などがわかりやすい例です。

そのため、必要以上に筋繊維が緩んだ状態も筋力の発揮という点においては注意する必要があります。たまにスポーツ選手が力を発揮するには、脱力から力を出すのが大事と言いますが、生理学的な観点から考察すると完全な脱力では至適長までの距離が遠くなりすぎるので、微力に力を入れているほうがいいかもしれません。

投擲の溝口和洋選手はこの理論を知っていたかわかりませんが完全な脱力は力発揮に良くないためある程度力んだ状態からスタートしてやりを投げていたそうです。それぞれの考え方や競技特性により変わると思いますが、至適長と呼ばれる筋繊維の状態があることを理解してもらえたらと思います。

 

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